漫画家・作家の平均課税とは?原稿料・印税が急増した年の税負担を抑える方法

漫画家・作家の平均課税とは?原稿料・印税が急増した年の税負担を抑える方法
2026年8月18日
漫画のヒットや単行本の発売、電子書籍の配信開始などにより、ある年だけ原稿料や印税が大きく増えることがあります。所得税は所得が増えるほど高い税率が 適用される累進課税のため、収入が一時的に集中した年には税負担も急増しやすくなります。
このように年ごとの所得変動が大きい場合、「平均課税」という制度により所得税の負担が軽くなる可能性があります。ただし、漫画家やクリエイターの収入がすべて対象になるわけではありません。特に、同人誌・グッズの販売収入や通常のイラスト制作料は、原則として平均課税の対象となる変動所得には含まれません。
この記事では、漫画家・作家の方を対象に、平均課税の仕組み、対象になり得る収入、適用条件、計算のイメージと申告上の注意点を解説します。
平均課税とは
平均課税は、年によって 大きく変動する一定の所得や、数年分の対価が一度に入る一定の臨時所得について、通常の累進税率をそのまま適用する場合の負担を調整する制度です。所得を実際に過去の年へ振り分けて申告し直す制度ではなく、その年の所得税を特別な計算方法で求めます。
所得税率は課税所得に応じて5%から45%まで段階的に上がります。原稿料や印税が一つの年に集中すると、その増加部分に高い税率が適用されることがあります。平均課税では、対象となる金額の一部を5分の1にして税率を計算し、その平均的な税率を残りの対象金額にも用いることで、税率の急上昇を緩和します。
なお、平均課税は所得税の制度です。住民税は通常の方法で計算されるため、所得税が軽減されても住民税が同じように減るとは限りません。
漫画家・作家で対象になり得る収入
国税庁の所得税基本通達では、変動所得に含まれるものとして「原稿又は作曲の報酬に係る所得」および「著作権の使用料に係る所得」を明示しています。漫画家・作家では、次の収入が検討対象になります。
出版社などから支払われる漫画・小説・記事等の原稿料
単行本、電子書籍などの印税
著作物の二次利用等に伴う著作権使用料
実質的に原稿の報酬または著作権使用料と認められる収入
判定するのは売上高ではなく、これらの収入から対応する必要経費を差し引いた「所得の金額」です。制作活動全体に共通する経費がある場合には、収入金額の比率、使用割合その他の合理的な基準で、変動所得に対応する部分とそれ以外を区分します。

通常の制作料・同人誌販売などは原則対象外
平均課税は「クリエイターの収入が増えた場合」に広く使える制度ではありません。法律上の対象となる所得の種類が限定されています。
自ら制作・印刷した同人誌をイベントや通販で販売した収入は、通常は商品の販売による事業収入です。グッズ販売も同様です。また、依頼を受けて納品する通常のイラスト制作料やSkebなどのコミッション報酬も、一般的には制作業務の対価であり、当然に「原稿の報酬」や「著作権の使用料」になるものではありません。したがって、これらは原則として平均課税の対象外と考えます。
ただし、名称だけで機械的に決めるのではなく、出版社との契約、著作権の帰属、利用許諾の内容、請求書・支払明細の記載などから実質を確認します。「制作料」「ロイヤリティ」などの名称が付いていても、実際の契約内容が異なれば税務上の判断も変わり得ます。
平均課税を選択できる主な条件
原稿料や印税が変動所得に該当しても、必ず平均課税を利用できるわけではありません。国税庁は、おおむね次の条件を示しています。
前年・前々年に変動所得がない、またはその2年分の変動所得の平均額が本年の変動所得より少ないこと
本年の変動所得と臨時所得の合計額が、本年の総所得金額の20%以上であること
前年・前々年の変動所得の平均額が本年の変動所得以上の場合は、本年の臨時所得が総所得金額の20%以上であること
漫画家・作家の場合は、まず本年の原稿料・印税等に係る所得を区分し、前年・前々年の同じ種類の所得を確認します。過去2年分の申告書、青色申告決算書または収支内訳書、支払明細などを並べると判定しやすくなります。

計算のイメージ
平均課税では、対象となる所得の全額を単純に5分の1にして税金を計算するわけではありません。前年・前々年の変動所得などを考慮して「平均課税対象金額」を求め、対象外の所得と組み合わせて平均税率を計算します。
【前提】前年・前々年の変動所得は0円、所得控除後の課税所得1,000万円、平均課税対象金額800万円。税額控除・復興特別所得税・住民税は考慮していません。
項目 | 通常計算 | 平均課税のイメージ |
課税所得金額 | 1,000万円 | 1,000万円 |
うち平均課税対象金額 | ― | 800万円 |
通常の所得税 | 176万4,000円 | ― |
平均課税による所得税 | ― | 約75万2,500円 |
この例は仕組みを示すための単純化した試算です。実際の計算では、所得控除、前年・前々年の変動所得、変動所得に対応する必要経費、税額控除などによって結果が変わります。また、条件を満たしても、所得水準によっては軽減効果がほとんど生じないことがあります。
必要経費の区分にも注意
平均課税の判定では、原稿料や印税の「収入金額」ではなく、それらに係る「所得金額」を求める必要があります。原稿制作のためのアシスタント代、資料代、制作ソフト、機材の減価償却費など、変動所得に直接対応する経費を差し引きます。
一方、同人誌販売、グッズ販売、コミッション制作なども並行している場合、家賃、通信費、パソコン代などの共通経費をすべて原稿料・印税側へ寄せることは適切ではありません。収入金額の割合、作業時間、使用状況など、説明できる基準で区分し、その根拠を残しておくことが重要です。
確定申告で必要になる手続き
平均課税を選択する場合は、「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」を作成し、その内容を確定申告書へ転記します。国税庁の確定申告書等作成コーナーにも、平均課税対象金額や変動所得・臨時所得を入力する項目があります。
本年の原稿料・印税・著作権使用料の収入と必要経費
前年・前々年の変動所得の金額
出版社等の支払明細、契約書、印税明細
源泉徴収税額が分かる支払調書・入金明細
青色申告決算書または収支内訳書
原稿料等から源泉所得税が差し引かれている場合は、源泉徴収前の報酬額を売上として計上し、源泉徴収税額を確定申告で精算します。平均課税の計算と源泉所得税の精算は別の処理なので、入金額だけで売上を集計しないよう注意しましょう。
平均課税と法人化は別の検討です
平均課税は、個人に課される所得税の計算方法です。法人が受け取る原稿料や著作権使用料について、法人税に平均課税の制度はありません。法人化すれば常に有利になるわけでもなく、役員報酬、社会保険料、法人住民税、法人の維持費などを含めて検討する必要があります。
一時的なヒットでその年だけ所得が増えた場合は、まず平均課税の対象になるかを確認する価値があります。一方、原稿料や印 税が今後も高い水準で継続する見込みであれば、法人化を含めた中長期的な検討が考えられます。
早めに確認したいケース
単行本の発売や作品のヒットで印税が急増した
連載開始や原稿の一括入金により所得が前年より大幅に増えた
紙・電子・海外配信など複数の印税明細がある
同人活動と商業活動が混在し、経費の区分が難しい
平均課税と法人化のどちらがよいか比較したい
まとめ
漫画家・作家の方は、原稿料や印税、著作権使用料が一つの年に集中した場合、平均課税により所得税の負担を抑えられる可能性があります。ただし、適用対象は限定されており、通常のイラスト制作料、Skeb等のコミッション収入、同人誌・グッズの販売収入は原則として対象外です。
適用の可否を判断するには、収入の名称だけでなく、契約内容、著作権の取扱い、必要経費、前年・前々年の変動所得を確認する必要があります。収入が急増した年は、通常計算だけで確定申告を終える前に、平均課税を利用できないか確認してみましょう。
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